記念講演要旨16 社会は進歩している。そして、その進歩を支えているのが科学技術の進歩だ。その傾向は近代以降とくに顕著であり、今や科学技術を無視して我々の生活は成り立たない。私もその恩恵を受ける一人として科学技術の進歩自体は否定しないが、それには負の側面もあることを忘れてはならない。本講演では、その負の側面が社会にどのような影響を与えるかを考えることで、現代から未来の社会の方向性を予測し、いかなる問題が起こりうるかを想定する。そして、それらの問題を解決する上で、仏教思想が重要な手がかりを提供する可能性を秘めていることを提示したい。 科学技術により我々の生活は便利で快適になるが、その「便利/快適」の背後にあるのは、煩悩に基づく人間の「エゴ(自我)」である。「もっと楽をしたい/もっと楽しみたい/もっと刺激がほしい」というエゴが科学技術を進歩させる。それによって我々の生活は便利になるが、それに慣れてしまうと、さらなる刺激(便利/快適)を求めてさらに科学技術が進歩する。つまり、未来に向かって人間のエゴは肥大化する方向に進むが、それは逆から見れば、「辛抱(我慢)できない人間」が増えるということでもある。辛抱できない人間が増えれば、何が起こるかは火を見るよりも明らかであろう。記念講演「現代における仏教の可能性を問う」講師平岡 聡 氏京都文教学園学園長・京都文教大学教授プロフィール京都文教大学…臨床心理学部…臨床心理学科…教授専門は仏教学(インド仏教)佛教大学大学院博士課程満期退学博士(文学)浄土宗教師著書に『鎌倉仏教』(KADOKAWA)、『菩薩とはなにか』(春秋社)、『南無阿弥陀仏と南無妙法蓮華経』『親鸞と道元』(新潮社)、『法華経成立の新解釈―仏伝として法華経を読み解く―』(大蔵出版)など。
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