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育恩の峰より
奥之院思親閣別当 町田 英昭
天高く馬肥ゆる秋 心も実る秋(みのぶ誌2019年10月号より)

 食欲の秋、スポーツの秋、そして読書の秋を迎えました。誌友の皆様方には、愈々ご健勝にてお過ごしの事と存じます。
 「実りの秋」は、気候も穏やかな上、春から夏にかけて育って来た様々な作物や穀物が収穫される事で、四季の中でも満ち足りて豊かな季節であると同時に、これからやって来る寒く厳しい冬を乗り切るためにも「実りの秋」は大切な季節です。しかし、辞書や地域によっては「実り」ではなく、穀物を表す禾(のぎへん)がついた漢字の「稔」を使って「稔りの秋」と表記される事もあるそうです。
 標高1,153メートル、杉林に覆われた奥之院思親閣では、落葉紅葉樹の生育が少ない為に、紅葉を堪能する事は出来ませんが、都会の雑踏を離れた静寂な空気の中で、宗祖日蓮大聖人の御心を、知恩報恩の御心を、十二分に感じて頂き、皆様方の心を満たす事は出来るものと存じます。
 春、私たちは満開の桜を愛でる時、心が和み幸せを感じます。また秋の紅葉も同様ですが、草木の美しさは、見る人から「美しい、綺麗だ」などと、評価を受けて初めて草木の価値が生まれます。同断に、人もまた回りの人から「あなたは素晴らしい、あなたのお陰です」などと、褒められたり感謝されて、初めて人間としての存在価値が生まれて来ます。
 「誰にも見られない時、花は花では無い」と言う詩が在ります。どんなに美しさを誇っている花であっても、誰にも見られない時、花本来の存在価値を持つ事が出来ないように、私たち人間も仕方なく義務的に見られるのでは無く、喜んで見られる人に成長しなければなりません。
 食欲の秋、体の成長と共に「蔵の財より身の財、身の財より心の財第一」に向かい、皆様方の心の成長と豊かさへの精進を、育恩の峰よりお祈り致します。

合掌