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七面山別当より別当 内野 光智
見られていなくとも(みのぶ誌2022年7月号より)
 山道の端に赤や白や黄土色のキノコが顔を見せ、山肌に小さな淡い紫のすみれが咲き、境内の芝生に黄色の小さな無数のツルキンバイ、一之池の周りに濃い朱色の九輪草が咲いています。山間部ゆえ平地に比べるとどれも少し遅めでありますが、現在七面山は沢山の色の植物たちが賑やかに参詣者の皆さまをお出迎え致しております。
 5月、規制なきゴールデンウイークには昼間の日帰りの方、敬慎院に宿泊をされる方、どちらもコロナウイルス蔓延以来久しぶりに大勢の方が登詣されました。
 5月あたりに、御山を遠くから眺めるとほんのり桃色がかった木が幾つか点在しております。
 山道を必死になって一生懸命登っていると、その存在に気付かず通りすぎることが多いのですが、地面に落ちている花びらを目にして上を眺めるとひっそりと咲く山桜を見つけ「わぁ」と思わず感嘆すると、ひたすら進んできたそれまでの険しい坂道の苦労がふっと消えていきます。
 敬慎院の境内にも山桜の木があるのですが、今年は例年になく色が濃く貫禄と申しましょうか、誇りと申しましょうか、気高さが木から溢れ出ているように感じました。
 残念なことは、この山桜が境内の奥まった谷間のような場所にあるため、お参りの方からは見つけ辛いのです。
 誰に愛でられるわけでなくとも、冬のマイナス15度の寒さに耐えて、たった数日の間きれいな花を咲かせ自らの本分を全うする。人に見られようが見られまいが、きれいと言われようが言われなかろうが、何にも作用されることのない山桜の勇姿に脱帽し、出家者のあるべき姿を学び自らの在りようを省みました。
 4月12日、浄化槽設置工事が着工致しました。
 既存の浄化槽も境内地の何処にあるかを御存知の方は少なく、二十数年の間人知れず黙々と働いてくれていたことを考えると感謝の念に堪えません。
 工事関係者の皆さん、作業無事の完遂を宜しくお願い致します。