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七面山別当より別当 小松 祐嗣
愛される七面山(みのぶ誌2024年4月号より)
 昨年4月七面山別当の任を受けてより、はや一年が過ぎました。一年を過ごし、私が初めて七面山に勤務した頃と何ひとつ変わらない環境に嬉しさも感じ、また時と共に変化してきた様々な状況に厳しさを感じております。
 去る1月、身延山第92世内野日総法主猊下が御遷化なされました。私が別当就任にあたりご挨拶に伺った際は、ご自身が七面山108代別当時代のお話を懐かしむように親しくお話しくださりました。内野法主猊下が別当時代、七面山にに残された御功績は数多く、その中でも今は欠かすことができない物資を搬入するための索道がございます。これにより、それまで多くの人手によって担われてきた、燃料、食料、重量の大きな機材の搬入を、安全確実に行えるようになりました。これまでの七面山の発展を支えてきたことは間違いありません。
 私がまだ若い山務員時代、数名の先輩僧侶は大きな荷物を背負い登下山をしていました。その先輩が私に教えてくれた事は今でも私の中にしっかりと残っております。「索道は楽をするためのものじゃないよ。楽を覚えたら無くなってしまった時大変な思いをするよ」。私はそれより出来る限り自分の荷物は自分で上げ下げをし、そしてそれを若い山務員にも伝えるようにしております。もちろん誰でも出来ることではありませんが、知れば心が変わります。誰しもがそうしてきた時代は遠い過去ではなく、法主猊下はじめ多くの諸先輩方のご尽力があって、七面山は今も変わらず御威光を湛えているのです。
 「七面山は大変な山だけれども、経験を活かして頑張ってください」とは内野法主猊下から頂いたお言葉。
 時が変われば、人の心も変わります。便利さを得れば感謝を忘れ、不思議と不平が溢れるものです。私の力は当然内野法主猊下の足元にも及びませんが、七面山を愛し、多くの人の心に寄り添い、そして愛される七面山であるよう努力を重ねてまいります。